THE DOOBIE BROTHERS FAREWELL TOUR (邦題「ドゥービー・ブラザーズ・フェアウェル・ツアー・ライヴ」)
そしてやってきた最期の日。 "FAREWELL TOUR" 最終の地,地元カリフォルニアでの2日間のコンサートの録音を元に構成されたライヴ・アルバムで,結果的に彼らが残した唯一のライヴ・アルバムということになりました。
再出発を期した "ONE STEP CLOSER" を発表した Doobies でしたが,Tiran Porter (b, vo) はツアーには同行せずに脱退し,またしても暗雲が垂れ込めてきます。 2nd アルバムから加入した Porter は,この時点で唯一のオリジナルメンバーである Pat Simmons (g, vo) に次いで長い間バンドに在籍していたメンバーであり,彼独特の弾力あるベースサウンドは長らく Doobies のリズムを(実はツイン・ドラムス以上に)特徴づけてきたわけで,その柔らかさと厚みを併せ持った声も合わせて,彼を失ったのは大きな痛手だったろうと思います。
事態を打開すべく,バンドは新メンバーとして Willie Weeks (b, vo), Bobby LaKind (perc, vo) を加えます。
Bobby LaKind は既に長年にわたってずっと行動を共にしてきた仲間でしたが,ついに正式メンバーとして名を連ねることになったわけです(なお,多くの解説記事では彼の正式加入が再結成後であるように書かれていますが,当時レーザーディスク (LD) のみで発売された彼らのライヴ・ビデオ "THE DOOBIE BROTHERS COLLECTION" にメンバーとして表記されていること,本作およびビデオ "THE DOOBIE BROTHERS FAREWELL 1982" において特に断りなく Bobby LaKind が正式メンバーと同等の扱いを受けていることなどから,彼の正式加入は Willie Weeks とほぼ同じ時期と考えてよさそうです)。
Willie Weeks は,ソウル・ミュージック史上最高のライヴ・アルバムの1つに数えられる Donny Hathaway の "LIVE" における名演などで既に高名なベーシストであり,彼がロックバンドである Doobie Brothers のパーマネントなメンバーになることは驚きをもって迎えられたようです。
ともあれ, Willie Weeks はすんなりとバンドに溶け込み,バンドは順調にツアーを成功させます。 この頃の演奏の模様は,解散前に発表された唯一の映像作品である上記のライヴ LD "THE DOOBIE BROTHERS COLLECTION" で見ることが出来ます。 また,このメンバー編成の時期に発表された唯一のスタジオ録音に,日本のコカコーラのキャンペーンに提供された曲 "Can't Let It Get Away (邦題「愛のゲッタウェイ」)" がありますが,これは今に至るも CD 化されず,日本でアナログディスクを漁る以外の入手方法がない,幻のスタジオ録音になっています(なんと,先ごろ出たボックス・セットにさえ収録されませんでした。 従って,現在でも,この曲は,日本以外では本作収録のライヴ・ヴァージョンしか知られていないことになります)。
一般的なイメージとしては,前期 Doobies は Tom Johston (g, vo) が,後期は Michael McDonald (key, vo) がバンドの中心であったように捉えられていますが,バンド内の力学としては,前後期通じてその中心にいたのは Pat Simmons (g, vo) だったようです。 彼は非常に優れたリーダーシップを持つバンドリーダーのようで,後から入ってきたメンバーと以前からいるメンバーとの意識のずれを調整しながら,バンドをうまくまとめ上げてきたのは彼の資質によるところが大きく,特に,オリジナルメンバーが次々といなくなってからは,後から加入したメンバーにとって,彼の存在こそが Doobie Brothers そのものだと思われていたフシがあります。 "MINUTE BY MINUTE" の後の解散の危機を乗り越えたことによって,そのイメージはますます強くなったようで, McDonald は後のインタビューで,「("MINUTE BY MINUTE" 発表後に一瞬生じた解散状態の時期に)このまま Pat が辞めると言ったら Doobie Brothers として続ける意味はないだろうと改めて思った」という趣旨のことを述べているほか,他のメンバーも「『Pat に続ける意思がある限り,Doobie Brothers は続くのだ』と思っていた」と述べています。
しかし,長年共に活動してきた仲間の相次ぐ脱退劇で,バンド内の雲行きがいよいよ怪しくなると共に, Pat Simmons もかなり疲弊してしまっていたのでしょう。 ツアーが終わって落ち着いたところで,「休養(要するに脱退)」を宣言します。 彼はやや離れた街に住んでいたため,“遠距離通勤”状態にあったわけですが,そのことを含め,続ける意義を感じられなくなったというようなことを後のインタビューで述べています。
既に次のアルバムのレコーディングに向けた動きが始まっており,マネージャーの Bruce Cohn はなおもバンドを存続させようとしたようですが,Simmons こそが Doobies そのものなのですから,“彼が辞めるのであればおしまい”というのは自然な決定だったのでしょう(McDonald は Cohn に「はじめにいたメンバーが1人もいなくなったのに(同じ名前で)続けるのはおかしい」と意見したそうです)。 当時 McDonald はソロ活動にシフトしたいという希望も持っており,解散という判断にはそのことも作用していたでしょうが,彼としては,上で述べた「Pat が辞めたら Doobie Brothers として続ける意味はない」という考えも念頭にあったのだろうと思います。
(一応付け加えておくと,Michael McDonald は後年,2nd ソロアルバム(本当は3作目) "NO LOOKIN' BACK" 発表後,日本のFM雑誌のインタビューの中で,解散の原因として「バンドが巨大な存在になった結果,活動が外部から管理されるようになり,自分達で意思決定できなくなった」ことを挙げています。 雑誌のインタビューですから必ずしも本音を語っているとは言えないでしょうが,こういった要因も背景にあったのかも知れません。)
こうして,1981 年,解散が発表されますが,解散に際してあいさつ代わりの「お別れツアー」が企画され,そのツアーは各地で熱烈な歓迎を受けたそうです。
そのツアーの最終日程,地元であるカリフォルニアでのライヴ録音を中心に構成されたのが,このアルバム "FAREWELL TOUR" で,アナログディスクのときは2枚組でした。
なお,最終日の様子はビデオ化("THE DOOBIE BROTHERS FAREWELL 1982")もされていますが,ビデオのほうは,メンバーの表情が分かるせいか “解散” という事実を意識せずに見るのが難しいのに対し,このアルバムの方は,純粋に1つのライヴ・アルバムとして聴いても素晴らしいものとなっています。
アルバム冒頭は,1st アルバムから Pat Simmons 作の "Slippery St. Paul" を少しだけ引用してます(古めの音に加工されている)。
そしてリズムと sax ソロに導かれて "Takin' It to the Streets" が始まるわけですが,この始まりの部分,ベースとハイハットのパターンからスネアが入り始める,その部分を聴いただけで,ライヴならではの素晴らしい躍動感を感じることが出来ます。 続く sax ソロですっかり盛り上がったところで,良く知られたピアノのイントロパターンが提示されるのですが,key にシンクロさせた特徴あるパターンを一糸乱れずに叩き出すツイン・ドラムスは最高で,僕の中でのツイン・ドラムスのベストプレイの1つがこのテイクです。 演奏全体としても,どこか固さが感じられるスタジオ録音バージョンに比べて躍動感にあふれ,McDonald の歌もライヴならではの盛り上がりを感じさせます。 エンディングに至る構成も見事です。
"Jesus Is Just Alright" では,Cornelius Bumpus が中間部のヴォーカルを担当し(2nd アルバムでは Pat Simmons が歌っている),ゴスペル的な素晴らしい歌唱を披露します。 オブリガードで入る Simmons のギターも見事です。
これらの曲に限らず,スタジオ盤よりも覇気のあるダイナミックな演奏が全編を貫いており,彼らのライヴの素晴らしさを伝えてくれます。
"Minute by Minute" も,スタジオ録音の落ち着いた抑制感のあるリズムやコーラスに対して,ここでの演奏はビートを前面に打ち出し,ヴォーカル・コーラスとも溌剌としています。 また,フェード・アウトだったスタジオ版にはないエンディングが加わっていますが,フェード・アウトのヒット曲をライヴで聴くといいかげんなエンディングでビックリ!という良くあるパターンの逆を行く,練られたアレンジで唸らされます。
"What a Fool Believes" でもギターソロを加え,スタジオ盤でのギターシンセとは一味違った“生っぽい”演奏に仕立て上げられています。
唯一,ちょっとどうか・・と思わせられるのは "Listen to the Music" のファンキーなアレンジでしょう。 とはいえ,僕はオリジナル・バージョンを刷り込まれているから拒否反応を起こしてしまうのかも知れず,そうでなければ,これはこれで面白いのかも知れません。
後半に入ると,Chet McCracken は perc や vib に回り,dr は Keith Knudsen 1人になる曲が増えます。
"You Belong to Me" では McDonald の熱唱が光り,"Steamer Lane Breakdown" と名曲 "South City Midnight Lady" は,共に John McFee の Pedal Steel が活躍します。
"Steamer Lane Breakdown" は,スタジオ・バージョンにおいては明確なメロディ・ラインがあるというよりはリズムとフレーズの断片の絡みによって構成されている感じだったのが,ここでは McFee をハッキリとフィーチャーして彼の弾くメロディを前面に押し出した演奏にしており,個人的にはより魅力的なものに仕上がっていると感じます。
"South City Midnight Lady" でも,McFee のソロが素晴らしく,McDonald を中心にしたソフトなコーラスの良さも加わって,再結成後を含めこの曲のベスト・テイクではないかと思います。 McCracken の vib も良い隠し味になっています。
Doobie Brothers のギタリストとしては,何と言っても Jeff Baxter のスリリングな演奏の評価が高いせいか,McFee はそれと比較して小粒だと考えられがちですが,テクニカルなフレーズや破天荒なソロ展開を見せる Baxter に対して,McFee の演奏は楽曲のイメージに忠実なものになっており,確かにギタリストの個性という意味では Baxter の方がガツンとくる存在ではあるのでしょうが,楽曲の表現という点ではむしろ本作の McFee のプレイに好感を覚えます。 特に,これら2曲における Pedal Steel は McFee の名演と言えるでしょう。
そして,このアルバム中(日本人にとっては)唯一の新曲でありこのアルバムで一番しょーもない(^^;ナゾの曲 "Olana" を経過して,いよいよクライマックス・・・ Pat Simmons がかつてのバンドの顔 Tom Johnston をステージに呼び出します。 そして演奏される名曲2曲。 熱狂する観客。 これ以上のクライマックスはあろうかという感動的な,しかし感傷とは無縁の盛り上がりでアルバムが終わります。
ということで,スタジオ録音よりもむしろ高度なアンサンブルを持った充実した演奏が聴けるアルバムであり,唯一のライヴ・アルバムにして Doobie Brothers のライヴ・バンドとしての素晴らしさを十二分に堪能できる作品だと思います。 Tom Johston も加わっているし選曲もバランスが取れているので,Doobies 初心者の人にどれか1枚となると,これを勧めるのが一番なのではないかと思ったりします。 初心者向けとしての唯一の難点は,代表曲である "Listen to the Music" のアレンジが,有名なスタジオ・バージョンと違いすぎることでしょうか。
ライヴ盤ということで敬遠している人いるとしたらが,あまりにもったいない話です。 代表作 "MINUTE BY MINUTE" なんかさしおいても,これを聴くべきだ! というのが僕の率直な意見です。
(ところが,このアルバム,現在入手困難な状態にあるようです。 再結成したんだから・・ということかもしれませんが,このまま埋もれさせるにはあまりにもったいない名盤です。 早期の再発を望みます。)
さて,ご存知のように Doobie Brothers はその後再結成し,復活を告げるシングル "The Doctor" はヒットチャートのトップを飾るなど,再結成バンドとしては異例とも言える大成功を収めることになります。
さすがに現在は比較的地味な存在になっていますが,米国でクラシック・ロックのアーティストのツアーが盛り上がっているということもあって,毎年ツアーを行ない,アルバムも制作し,たまには来日もしてくれて,まだまだ活動意欲十分という感じです。
僕が Doobies を本格的に好きになったのは解散後,この "FAREWELL TOUR" を聴いたことがきっかけで,だから当時は当然,本物の Doobie Brothers を生で見ることなど不可能だと諦めていました。 それを思えば,再結成とその後の順調な活動ぶりは夢のようなことです。
とりあえず,このシリーズは一旦終わりにして,再結成後の諸作は,またの機会に紹介したいと思います
(このシリーズは一旦終了です。)
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