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第1回 The Doobie Brothers アルバム全紹介 (その1)

ということで,まずは,敬愛するロックバンド,The Doobie Brothers のオリジナルアルバムの紹介からスタートしましょう。(July, 2004)
 
 1970年

MAKE IT EASY MAKE IT EASY  (邦題「メイク・イット・イージー」)

 このアルバムからスタートするのも妙かもしれませんが,まぁそこは僕のこだわりということで。

 これは Doobie Brothers 解散後にマイナーレーベルから発売されたもので,レコードデビューする前に録音されたデモテープをCD化したものです。 音質は思ったよりも良く,十分鑑賞に堪える・・・というより,当時の商業音源と比べても遜色ないクオリティです。

 プロデューサーとしてはこれを録音したスタジオのオーナーの名前が挙がっていますが,それよりも重要なのはレコーディングエンジニアとして記されている Marty Cohn の存在で,この人が持ち込んだデモテープがワーナーの目に止まり,Doobie Brothers レコードデビューのきっかけとなります。 また,現在まで 30 年以上に渡って彼らのマネージャーを勤め続けている Bruce Cohn はこの人の兄弟のようです。

 曲はコンパクトなものが多いのですが,明らかに後のアルバムに収録された曲の下敷きになっている曲も幾つかあり,興味深いです。 素晴らしいのは,既に Doobie Brothers としか言いようのない,独自の音楽スタイルが出来上がっていることで,予想以上の完成度の高さに驚かされます。 デビュー後の Doobie Brothers の音楽性にはプロデューサーの Ted Templeman の果たした役割が非常に大きいと言われており,実際その通りだと思われるフシもありますが,しかし,実は Ted Templeman の関与がなくても十分過ぎるほど魅力的だったことが分かります。

 また,リーダー格の1人だった Tom Johnston (g, vo) がフェードアウトしていった後期 Doobies は,前期とは全く別のバンドだと言われることも多く(僕はその意見には組しません),全ての時期を通してバンドのリーダー格であり続けた Pat Simmons (g, vo) を「変節漢」のように批判する向きも一部にはあるのですが,後期 Doobies の持つ洗練された部分も,既にこのデモテープの中にハッキリとその萌芽を見出すことが出来,彼らの音楽が(前面に押し出されていた要素は時期によって違うけれど)終始一貫したものであったことが明確に分かります。

 マニアックなアルバムではありますが,妙な海賊版を手にするくらいなら,先にこのアルバムを聴くべきだと思います。

 

 1971年

THE DOOBIE BROTHERS THE DOOBIE BROTHERS  (邦題「ドゥービー・ブラザーズ・ファースト」)

 記念すべきファースト・アルバム。

 新人バンド発掘を進めていた Ted Templeman らの強力なプッシュによってデビューを果たした Doobies ですが,この 1st は商業的には失敗に終わったようです(2nd 以降と違って,このアルバムは Lenny Waronker と Ted Templeman の共同プロデュース)。 しかしながら,シングル・カットされた冒頭の "Nobody" などは,16分音符をザクザク刻むイントロのカッティング,Tom Johnston (g, p, harp, vo) の張りのある歌,ソリッドで厚みのあるコーラスワークといった,「まさに Doobies!」と言える要素が満載です。 これ以外の曲も粒ぞろいで,売れなかったのは全くもったいないことです。

 まぁ,そう言いながらも,売れなかったことがうなずける点もあります。 とにかく,アルバム全体として,硬派で地味な印象があり,華やかさに乏しいのです。
 後のアルバムと違って,このアルバム時点でのメンバーは4人(Tom Johnston (g, p, harp, vo), Pat Simmons (g, vo), Dave Shogren (b, org, vo), John Hartman (dr) )。 ツインドラムもまだ導入されていません。 また,bass の Dave Shogren (1999年死去)のプレイは,堅実で特に文句を付ける余地はないんですが,後に彼に替わって参加する Tiran Porter の華やかで弾力がある演奏とは明らかに違います。
 そうした違いに加えて,このアルバムでは,デモテープ("MAKE IT EASY")に聴かれるバラエティがなく,曲の方向性を意図的に絞っているようです。 後の彼らのインタビューなどを見ると,これはプロデューサー陣の意図によるもののようで,Doobies の幅広い音楽性の中で彼らが特に気に入った部分を前面に押し出そうとしたということのようです。 特に,このアルバムの特徴として,アコースティックギターを前面に押し出したソフトロック的なアレンジが挙げられますが,この方向を強調したのは Lenny Waronker の考え方によるもののようで,彼は当時そのようなソフトロック路線でヒットを飛ばしていたため,同じパターンで売り込む戦略だったと考えられています。 個人的には,確かに穏やかで聴きやすい音になっているものの,あまりにソフトロック的な枠にはめすぎたことが各曲の主張を弱めているような気がしないでもありません。 Doobies としてもこれは本意ではなかったようで,当時の彼らは Allman Brothers Band などに見られる南部的な方向性を重視しており,よりエレキギターの音を強調したハードな音楽を打ち出そうとしていました。 このアルバムでもそういった曲が見られますが,Waronker の意図とは違っており,主にバンド側の強い要望によって収録されたようです。 今の耳で聴くなら,こうした音楽的な振幅の大きさも Doobie Brothers の魅力の一端であり,このアルバムもハードな曲が混ざっていることによって楽しく聴ける面があります。

 また,更に言えば,アコースティックギター主体のフォークロック的な "Slippery St. Paul" などとハードな感覚の "Beehive State" などは全く異なる曲想なのですが,アルバムの中で全く違和感なく共存しています。 この統一感は,彼らのトレードマークであるコーラスによるところ大でしょう(僕が Doobie Brothers に魅せられたのも,このコーラスワークが大きな理由でした)。 彼らのコーラスでは,ソフトな感覚よりもソリッドでダイナミックな「強さ」が強調される面があり,その結果,フォークテイストの曲であってもフォークの枠にいることを感じさせません。 妙な言い方ですが,複数の雄叫びがなぜかバッチリ調和してしまっている・・・みたいな独特の良さがあるのです。 こういったコーラスの感覚は,強いて言うなら南部のゴスペルグループ的でもあり,もっと近いところでは Creedence Clearwater Revival の発展形みたいな趣もありますが,それでいて,同時に何とも言えない爽快感も感じさせるのが素晴らしいところです。 日本では,Doobies の特徴としてツインドラムやトリプルギターなどの編成面ばかりが強調されがちですが,Tom Johnston は近年 "WILDLIFE CONCERT" のビデオの中で,「Doobie といえばコーラス・ハーモニー。 それから(ツインドラムスによる)リズムだ。」と語っており,メンバーが代わっても多少音楽的な方向性が変わっても,Doobie を Doobie たらしめてきたのは,何よりまず,この独自のコーラスワークであると言って間違いではないでしょう。

 各曲にあまり触れませんでしたが,前述の躍動感あふれる "Nobody",穏やかで郷愁を誘う "Travelin' Man" や "The Master"など,粒ぞろいです。 休憩時間にみんなで歌って楽しんでいるかのような,シンプルでリラックスした感じの "Chicago" も気に入ってます。 全体になんとなく自由で朗らかな空気が感じられるのもこのアルバムの魅力で,個人的には地味だけどいい作品だと思います。 とっ散らかってしまった印象のある4枚目("WHAT ARE ONCE VICES ARE NOW HABITS")なんかに比べると,ジャケットも含めアルバム全体として統一感のある作品に仕上がっており,密かに好きなアルバムです。

 

 1972年

TOULOUSE STREET TOULOUSE STREET  (邦題「トゥールーズ・ストリート」)

 セカンド・アルバム。ここから Doobies の快走が始まります。

 まず,メンバーが変わりました。 まず dr に Michael Hossack が加わってツイン・ドラムスの体制になり,更に Dave Shogren (b, vo) に代わって黒人ベーシストの Tiran Porter (b, vo) が加わりました(ただし,収録曲の一部は Dave Shogren が演奏しています)。 結果として,重心がグッと低くてしかも弾力のあるリズムが形成され,この強力なリズムを土台にした完成度の高いアンサンブルに,更に分厚いハーモニーが爽快感を運ぶ,これ以降の Doobies の魅力の核となるサウンドが得られています。

 メンバーチェンジの効果は1曲目の "Listen to the Music" の冒頭部分を聴いただけで明らかです。 Doobies らしい 16 ビートのカッティングが始まると,続いて Tiran Porter のベースがブンブンうなりを上げて加わってきて快感です。 また,彼の声は黒人ヴォーカリスト的なソフトな手触りがあり,それが加わることでコーラスに(ソリッド感はそのままに)ふっくらした厚み感が加わっています。 コーラスワークは Doobies の売りの1つですが,その面でも彼の参加はプラスに作用していると思います。
 Michael Hossack の効果は Tiran Porter に比べると地味に見えますが(ツイン・ドラムスの効果はライヴの場で発揮されるという側面が強い),プロデューサーの Ted Templeman は後のインタビューで「スタジオミュージシャンよりも正確なドラマーが加わって最高だった」という趣旨の発言をしており,リズムの安定度・パワーアップにかなり貢献しているようです。

 実は,このアルバム,当初は Doobie Brothers のセルフ・プロデュースの形で制作がスタートしたようです。 1st アルバムで自分達のやりたい方向とは違う方向に枠をはめられそうになったことへの反発もあって,「前作でレコーディングの概要も分かったから,自分達でやればもっと思い通りの良いものが出来る」ということだったのでしょう。 それで何曲かレコーディングしたものの,やはり外部の助言があった方がいいという Lenny Waronker のアドバイスもあって,紆余曲折の末,1st アルバムでも世話になった Ted Templeman がプロデュースすることになります。 かつて Harpers Bizarre のメンバーとしてヒットを飛ばした経歴を持つ Templeman は,当時まだ駆け出しのプロデューサーでしたが,もともと Doobies の音楽を高く評価しており,今作の成功によって,両者の緊密な関係は解散するまで続くことになります。

 アルバム全体としても,彼らの意図どおり若干ハードなものの比重が増して,前作よりもダイナミックな躍動感を強調した内容となっています。 また,上述したような演奏面での変化に加えて,1stに比べて空間的な広がりを感じさせる録音や,効果的なエフェクトの使用,長めのインプロビゼーションを織り込むなど曲ごとの展開の多様性を打ち出していること・・・などが,アルバムとしてのダイナミズムを更に強調し,華やかでバラエティに富んだ印象を与えることに成功しています。 ゲストで参加している Little Feat の Bill Payne (p) の果たしている役割も大きく,この後も彼は準レギュラー的にレコーディングに参加し続けることになります。

 このアルバムから "Listen to the Music" がヒットし,Doobie Brothers は一躍注目のバンドとなります。 この曲は,初ヒットであることもさることながら,現在でもアンコールで必ず演奏される最重要曲ですが,それ以外にもこのアルバムには,コンサートのオープニングを飾る "Rockin' Down the Highway" や,"Jesus Is Just Alright" など,彼らのライヴに欠かせないレパートリーが収められており,その点も見逃せません(ちなみに,"Jesus Is Just Alright" の邦題はこのアルバム発表時には「キリストは最高」になっていましたが,後に「希望の炎」に改められました。 この曲はカヴァー曲で,彼らは,やはりカヴァーである Byrds の演奏が気に入って取り上げたそうですが,Byrds バージョンの邦題はそのまま「ジーザス・イズ・ジャスト・オールライト」となっているようです。 オリジナルはどうだったのか僕は確認できていませんが(そもそも日本未発かも),やはり「キリストは最高」ではちょっとマヌケな感じがしないでもありません)。
 上記の曲以外にも,幻想的なタイトル曲からホーンセクションをフィーチャーした "Cotton Mouth" へという緩急の変化も心地よいショックを与えてくれるし,彼らにしては珍しいツインリードギターを含めた長いインプロヴィゼーションが展開される "Disciple" や,エピローグ的なブルース "Snake Man" なんかもおいしいと思います。

 

 1973年

THE CAPTAIN AND ME THE CAPTAIN AND ME  (邦題「キャプテン・アンド・ミー」)

 名盤の誉れ高いサード・アルバム。「ロック名盤選」などの企画の多くに顔を出す代表作の1つです。

 メンバーには変化なく,バンドとして安定した時期だったと言えるでしょう。 前作に引き続き Bill Payne (key) や,当時 Steely Dan のメンバーで後に Doobies の正式メンバーになる Jeff Baxter (pedal steel) がゲストとして顔を出しているほか,まだ新しい楽器だったシンセサイザーが導入されていたりします。 (シンセについては,メンバーが,Stevie Wonder のアルバムを聴いて「こんな音を入れられたらいいな」みたいなことを言ったら,プロデューサーの Ted Templeman がホントに呼んでくれてビックリ!みたいなことがあったようです。)

 内容的には,何といっても,誰もが一度は耳にしているであろう "Long Train Runnin'" "China Grove" の2曲が収められているのが特筆すべきことでしょう。 "Long Train Runnin'" のイントロのカッティングなんかは,およそギタリストなら誰もが一度は弾いてみたことがあるのではないでしょうか。 "Smoke on the Water" の次くらいにギタリストへの普及率の高いイントロかもしれません。 "China Grove" のリズムギターも,負けず劣らず有名ですし,Tom Johnston (g, harp, vo) の才能が開花したアルバムと言っていいでしょう。 "Long Train Runnin'" のバッキングでの3台のギターの絡みの素晴らしさは今更書くまでもないくらいですが,実は個人的に,"China Grove" がホントに良く出来た曲だということに最近改めて気づいたりしてます。
 ちなみに,"China Grove" は実在しますが,Johnston によると,そこについて歌った「ご当地ソング」ではなく,何もかも彼の頭の中で勝手に思いついたことを歌にした “想像上の街” の歌なのだそうで,現実との一致は偶然だそうです・・・ホントかな〜。

 また,知名度では上記2曲に劣りますが,もう1つ重要なのが Pat Simmons (g, vo) の代表作 "South City Midnight Lady" です。 彼のバックグラウンドであるフォークのテイストが存分に味わえる美しい曲で,歌詞もカントリー的な優しさを感じさせます。
 多くの人気ロックバンドはレパートリーにスローバラードを持っていて,それがコンサートの盛り上がりの重要な局面で演奏され観客を感動させるわけですが,Doobies には,その長い歴史にもかかわらず,バラードと言える曲が(なんと!)1つもありません。 その代わりの役目を果たして観客を感動させてきたのが "South City Midnight Lady" と言えるでしょう。

 シンセはまだ黎明期であり,当時は一部屋を埋め尽くす“巨大装置”だったそうで,導入は容易ではなかったようです。 もちろんモノフォニックなので,和音を得るには何度も音を重ねて録音していくという面倒な作業が必要でした。 まぁ,(世間的なイメージからは意外かもしれませんが実は)新しい試みが好きな Tom Johnston の趣味的な部分が大きいのでしょう。 シンセ導入の効果は,現在の耳で聴くと正直「?」で,上記の "South City Midnight Lady" なんかはシンセよりは普通にストリングスアレンジで盛り上げたほうが良かったのでは?という気もしますが,それは今だから言えることかも知れません。 とにかく,以後,Michael McDonald (key, vo) がシンセを積極的に使うようになるまで,Doobies のアルバムでは表立ってシンセが使われることはなくなります。

 曲のことに話を戻すと,前述の3曲のほかにも,ハードなロックンロールながら大きな起伏を持った "Without You",静かな出だしからサイケデリックな展開を見せる "Clear as the Driven Snow" など,これまでにないドラマティックな構成の曲や,ストリングスが効果的な素晴らしいブルース・チューン "Dark Eyed Cajun Woman",軽快なシャッフルの "Ukiah",恐らくはアルバム全体の展開を考えて挿入されたであろう,50秒足らずのインスト "Busted Down around O'connelly Corners" など,曲想もバラエティに富み,前作よりも更に大きなスケール感を感じられるアルバムになっています。 それでいて全体の統一感も損なわれることがないのが見事で,「スケールの大きなロックを,あくまで親しみやすく聴かせる」彼らの音楽性を確立した1枚ということが出来るでしょう。

 

(4th アルバム以降は次回に・・・。)