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第5回 The Doobie Brothers アルバム全紹介(その5)

The Doobie Brothers オリジナルアルバム紹介の5回目。 今回はバンド史上最高の成功を収めた9枚目のアルバムを紹介します。(October, 2004)
 
 1978年

MINUTE BY MINUTE MINUTE BY MINUTE  (邦題「ミニット・バイ・ミニット」)

 ついに,ヒットチャートバンドというだけではない名声を手にした 8th アルバム(ベストアルバムを入れると9枚目)。 Michael McDonald (key, vo) と Kenny Loggins の共作 "What A Fool Believes" がバンドにとって2曲目の No.1 ヒットになり,グラミー賞でも4部門を独占するなど,バンド史上最高の成功を収めました。 グラミーの受賞という面では,これと同等以上の評価を得たアーティストは本当に数えるほどしかなく,名実共にアメリカを代表するバンドという地位を確実なものにしたと言えるでしょう。
 Doobie Brothers の代表作というだけにとどまらず,この時代のいわゆる AOR (adult oriented rock) を代表するアルバムとして,今も言及され続ける名盤です。

 レコーディングメンバーは基本的に前作と変わりませんが,前作までは一応正式メンバーとしてクレジットされていた Tom Johnston (vo) はついにメンバーから外れ,ゲストヴォーカルとしての参加にとどまっています。 想像するに,Johnston がメンバーとしてクレジットされていたのは,あくまで彼が療養中だったことによる暫定的な措置で,一時的な復帰も伝えられてはいたものの,実際にはこの間のアルバム制作における彼の関与はほとんどなかったのだろうと思います。 このことは, Johnston 自身が後のインタビューで「ソロアルバムのレコーディングまでの2年間あまり,全然歌っていなかった(そのため,レコーディングに入るまで不安だった)」という趣旨の発言をしていることからもうかがわれます。 長びいた療養から回復すると, Doobies の音楽はもはや彼が深く関与できない方向に進み,かつ,その方向で実績を積んでおり,また,レコード会社サイドとしても,新しい顔である Michael McDonald を売り込む方が得策と判断して,彼の全面復帰を歓迎しない意向だったのでしょう。 この後, Tom Johnston はソロアーティストとして復活を飾ることになります。

 ちなみに, Johnston の 1st ソロアルバム "EVERYTHING YOU'VE HEARD IS TRUE(邦題「真実の響き」)" のプロデュースは Ted Templeman が務め,内容的にも Doobies 時代と変わらない音楽性を披露しています。 レコーディングには Keith Knudsen (dr) や Michael McDonald (key) が参加,アルバム発表後のツアーには John Hartman (dr) らが参加して,かつてのバンドリーダーの新たな門出に花を添え,そのツアー自体も「Doobie よりも Doobie らしい」と,好意的な評価を受けたそうです。

 このような Tom Johnston の去就を除けば, "TAKIN' IT TO THE STREETS" 以降,オリジナルアルバム3枚続けて同じ顔ぶれでレコーディングしたわけで, Doobies の長い歴史上,ここまで安定した顔ぶれで制作にあたっていた時期はありません。 ともすれば Michael McDonald ひとりに評価が集中しがちなこの時期の Doobie Brothers ですが,(一時的な人気の低下にもかかわらず)実はバンドとして強い結束力を持っていたと言えるでしょう。
 また, Bobby LaKind (perc, vo) は実質的にメンバーと同等の役割を果たしており,準メンバーとして写真入りで紹介されています。
 主立ったゲストミュージシャンとしては, Nicolette Larson (vo) が参加して "Sweet Feelin'" で Pat Simmons (g, vo) とデュエットしているほか,久々に Bill Payne (key) がシンセサイザーで参加しています。

 最初に述べたとおり栄光に包まれたアルバムですが,その制作過程は順調とはいえなかったようです。 Michael McDonald をはじめ,メンバー一同過敏なまでにレコーディングに微妙な整合性を求めるようになっており,録音は困難を極めました。
 特に有名なのは "What A Fool Believes" のレコーディングにおけるエピソードでしょう。 まずリズムトラックが上手くいかず, Keith Knudsen (dr, vo) と Ted Templeman (produce) は徹夜でいろいろなパターンを試し,悩んだ末に,最終的には,オカズを極力なくしたシンプルなパターンを2人で叩くことでいい雰囲気になることを発見します(そのため,この曲のツイン・ドラムスは Knudsen と Templeman の2人によるもの)。 更に,歌入れの段階になって,またしてもどうにも上手くいかなくなり,何度もテイクを重ねた結果,スタジオの天井まで録音済みテープが積みあがるような事態になります。 しかし,それでもいいテイクが録れなず,どうしたものかと一同煮詰まっていたところ,レコーディング・エンジニアの Don Landee が「大丈夫だ」と言って,あるテイクのサビ前と,別のテイクのサビをつないだところ,突然曲が生きてきて,みんな彼に感謝したと・・・いうことです。
(この後半部分のエピソードについて,ヒストリー・ビデオ "LISTEN TO THE MUSIC" の中では Don Landee の功績と述べられていますが,先ごろ出た BOX SET のライナーノーツでは Ted Templeman がやったことと述べられています。 どちらが正しいのか不明ですが,ここでは前者の説を採りました。)
 このような苦労が続いた結果,アルバムの制作はついに暗礁に乗り上げます。 その状況の中, Templeman が中心になってそれまでに録音されていたものをなんとかつなぎ合わせ1枚のアルバムにまとめ上げたのが本作 "MINUTE BY MINUTE" であり,この成り立ちから,メンバーはこのアルバムを "Teddy's album" と呼んだりするそうです。

 というわけで,どうやら必ずしも自信を持って世に送り出されたわけではない本作ですが, "What A Fool Believes" と "Minute By Minute" という2曲の大ヒットによって,大成功を収めることになり,グラミー4部門独占という実績も手伝って,現在でも AOR を代表するアルバムと言われるに至っています。 例えば,“ロック名盤選” のような企画があると, Doobies の場合,いわゆる前期から1枚("THE CAPTAIN AND ME" か "STAMPEDE" のどちらか)・後期から1枚("MINUTE BY MINUTE")選ばれることが多いのですが,前期のアルバムが選ばれない場合でも "MINUTE BY MINUTE" は選ばれたりします。 僕も含めファンにとっては複雑な気分にさせられる事実ではありますが,チャートその他の実績や時代への影響の大きさを考えるなら,ある程度はその評価を受け入れざるを得ないでしょう。
 ちなみに, "What A Fool Believes" の当時の邦題は「ある愚か者の場合」ですが,現在ではこの邦題は忘れられてしまったかのようです。(^^;

 そうした世間的な評価にも関わらず,僕自身は,1枚のアルバムとしての本作の完成度は決して高くないと思っています。 本作は,非常にバラエティに富んだ曲,異なるベクトルを持つ曲の「寄せ集め」であって,統一感のある1つのアルバムという印象に乏しいのです。 それは,上で述べたアルバムの成立過程と無関係ではないでしょう。 本作を1つながりのアルバムに感じさせているのは,良く考えられた曲順や Ted Templeman の巧みな処理によるところが大きいと言えます。
 ところが,この「寄せ集め」的な性格こそが,逆説的に本作を聴く者に充実感をもたらしているとも言えるのです。 収録曲はどの曲もシングルヒット性のあるものばかりで,ある意味,捨て曲なしの「新曲ばかりで構成されたベストアルバム」みたいな感じがあります。 本作の成功の秘密は,この「各曲のクオリティの高さ」なのだと思います。

 サウンドに関しても明確な統一感はなく, key とリズムセクションとの絡みをメインにして,gを色づけとソロに使う感じの McDonald 作品と,gによるリフを中心に展開させて key を装飾的に使う Pat Simmons 作品とに大別されます。 特に,後者では再びディストーションサウンドを用いてロック色を強調しており,ほぼ Jeff Baxter (g) のクリーントーンのみで構成されていた前作との違いを際立たせています。
 シンセ及びギターシンセの使い方は格段の向上を見せ,他の楽器と調和して違和感のない,効果的なアンサンブルを作っています。
 また,漂白剤を使いすぎたかのような前作のリズムを反省してか,今作では躍動感あるリズムが戻ってきた印象があり,曲によって異なるリズム感が使い分けられています。

 冒頭からの3曲("Here To Love You", "What A Fool Believes", "Minute By Minute")はいずれも McDonald の作品(共作含む)で,いずれ劣らぬ傑作です。 共通するのは key と打楽器セクションとの絡みが曲の基本パターンを作っていることで,何といっても, Ted Templeman がヒットを予感し,その通り No.1 ヒットになった "What A Fool Believes" のバッキングパターンが有名なわけですが,個人的には "Here To Love You" の躍動感あふれるピアノと dr の絡みが気に入ってます。
 ややトリッキーなフレーズを織り込みつつ曲を新たなパターンに展開させている点も,これらの曲に共通した魅力ですが,前作と違うのは,そうした複雑なアレンジも,あくまで心地よいショックの範囲であるように配慮されており,聴く側は何の違和感もなく単純に楽しい音楽として聴けてしまうというところです。 そうしたアレンジの妙は,例えば "Minute By Minute" などで明確であり,聴き手を軽い混乱に陥れるイントロから前作のリズム感の延長にあるクールなグルーヴに誘い込み,更に曲中で自然に転調に持ち込むなど,非常に「おいしい」展開を作り上げています。
 ここまでは落ち着いて聴けるアルバムだと感じさせられるのですが,4曲目からは Pat Simmons の作品(共作含む)を加えることで大きな変化が生じます。 "Dependin' On You" は現在でもコンサートでよく演奏される佳曲(McDonald との共作)ですが,驚かされるのはその次の "Don't Stop To Watch The Wheels" です(Jeff Baxter らとの共作)。 後期 Doobies では最もハードな曲であると同時に,不思議なギターの単音リフがなぜか見事に曲とマッチした快作で, John Hartman の演奏と思われるおよそ洗練とは程遠いドラミングと,歪んだギターのコンビネーションとが,アルバム全体の流れを大きく撹乱します。 このエキセントリックなギターのリフについて,僕は長らく Jeff Baxter のアイディアだと思っていましたが,実は, Pat Simmons が長年温めていたリフだそうです。 ギターソロの後,一度 “溜め” を作るアレンジも鮮やかで,「そういえば, Doobie Brothers っていうのは,こういうバンドだったんだよなぁ」と思い出させてくれる豪快な R&R になっています(Tom Johnston はこの曲のみ参加)。 このような振幅の大きさや,ここでも聴けるトレードマークの分厚いコーラスを維持し続けたことが,ライヴ・バンドとしての Doobie Brothers の魅力の源泉になっていたことは間違いないでしょう。
 後半に入っても, "Open Your Eyes", "You Never Change" といった佳曲が並ぶ中, "Steamer Lane Breakdown" がまたしてもアルバムのまとまりを叩き壊します。 明確なメロディも持たず,ブルーグラス〜カントリー的な演奏スタイルにロック的なリズムを強引に融合させたこのインスト曲の存在は全くもって謎というほかありませんが,なぜか普通に聴けてしまいます。 少なくとも僕はこのようなスタイルの音楽を他に聴いたことがありませんが,特に目新しさを強調するでもなく全く問題なく1つの楽しい音楽として聴けてしまう,この辺が彼ららしい感じがしますし,ある種の懐の深さみたいなものを感じさせる部分でもあります。

 以前にも書きましたが,多種多様な音楽性を1つのバンドの下に結実させることは Doobie Brothers の結成時の基本コンセプトでもあり,その意味では,バラエティに富んだこのアルバムは,最もそのコンセプトにのっとったものと言えるのかも知れません。 アメリカの多種多様な音楽要素を自在に取り上げて組み合わせると同時に,新しい音楽スタイルをも提示し,しかもそれら全てを親しみやすい曲の形で示した・・・ということで,本作は売れるべくして売れたと思えないこともありません。 アルバムのコンセプトやストーリー性を重視する立場の人でなければ,文句なく楽しめる1枚です。
 

 さて,本作の成功で彼らはバンド史上最高の評価を得ますが,実を言うと,結成以来途切れることなく続いてきた Doobie Brothers としての活動は,ここで一度終わっていて,実質的にはこの作品が彼らのラスト・アルバムでした。 知っての通り,現実には,彼らはもう1枚スタジオレコーディング・アルバムを制作していますが,そのあたりの事情は次のアルバムのレヴューで紹介することにしましょう。

 

その6に続く)