TOP    BAND    INSTRUMENTS    REVIEWS    BLOG    LINKs    GUESTBOOK

 
REVIEWS
REVIEWS
REVIEWS

第3回 The Doobie Brothers アルバム全紹介(その3)

The Doobie Brothers オリジナルアルバム紹介の3回目。 今回は,バンドの転換点となったアルバム1枚に絞って紹介します。(August, 2004)
 
 1976年

TAKIN' IT TO THE STREETS TAKIN' IT TO THE STREETS  (邦題「ドゥービー・ストリート」)

 問題作の 6th アルバム。 あらゆる意味で Doobie Brothers の転換点になった作品と言えます。

 傑作 "STAMPEDE" を制作した彼らはツアーに出ますが,その途中でバンドの顔である Tom Johnston (g, vo) が胃を壊して家に帰るというアクシデントに見舞われます。 原因はドラッグだと後に本人も認めており,状態を見かねて周囲が家に帰したということのようです。 この後,彼は長い療養生活を余儀なくされます。
 当時のロックバンドの奇行については,いろいろな伝説が残されており,彼らもいろいろ騒動を起こしていたわけですが,それはともかく,バンドの顔の1つを失ったことに加えて演奏面が手薄になったことも確かで,ツアーの続行が危ぶまれました。 そこで,Jeff Baxter (g, vo) が急遽 Steely Dan 時代の仲間である Michael McDonald (key, vo) を呼び寄せ,McDonald は2日間の突貫工事的なリハーサルを経てツアーに合流,バンドとしてはツアーのキャンセルを最小限に食い止めることが出来ました(とはいえ,客席から「Tom Johnston はどこだ !?」などの声があがったり・・・ということはあったようですが)。
(ちなみに,このアルバムが出る少し前,1976 年冒頭に Doobies は初来日を果たしています。)

 Steely Dan のツアーというと(僕の記憶では)1974 年 "PRETZEL LOGIC" 発表後のものがほぼ最後であり,Michael McDonald は,そのツアーと次のアルバム "KATY LIED" に参加したものの,それ以降ライヴらしい活動はほとんどなく(この後の Steely Dan はバンド形態を完全に解消し,Donald Fagen と Walter Becker の2人のレコーディングユニットに移行してしまいます),結果としてそれほど忙しいわけではなかったのだろうと思います。(余談ですが,Donald Fagen がホストを務める "THE NEW YORK ROCK AND SOUL REVUE" (1991 年)において,1974 年頃の Steely Dan のツアーを懐かしみながら Michael McDonald と一緒に "Pretzel Logic" を演奏するという,ファンには涙モノの一幕があります。)

 McDonald としては,Doobies への参加はあくまで臨時のツアーサポートメンバーとしてのものであり,ツアーが終わったらサヨナラだろうと思っていました。
 ところが,当時 Doobies はワーナーとの間にもう1枚アルバムを作る契約が残っており,メンバーとプロデューサーの Ted Templeman はレコーディングに使える題材やストックを探すことになりましたが,何しろ Tom Johnston の回復はすぐには望めない状況だっただけに,方針を決めかねていました。
 そんな中で,McDonald の自作曲のデモを聴いた Templeman は興奮して「これはダイヤの原石だ」と主張,彼はそのまま Doobie Brothers に留まって次のアルバムのレコーディングに参加することになります。 このことの背景には,Johnston 抜きでアルバム制作を進めなければならない切羽詰まった状況だったことがあるのはもちろんですが,Michael McDonald は “物静かな紳士” 的なイメージからは意外なほど楽しい “いいヤツ” なのだそうで,ツアーを通じてメンバーと仲良くなったことも,すんなりバンドに参加できた遠因なのかもしれません。

 エライ長い前振りになりましたが (^^;;,こうして Tom Johnston の復帰を待たずに制作されたこのアルバムは,これまで Doobie Brothers の音楽に親しんできた人達にとって,賛否両論の問題作になりました。 以後の Doobies の音楽的な変遷を考えるとこのアルバムはターニングポイントであり,内容的には過渡期のものと言うことが出来ます。 しかしながら,そうした位置づけを簡単にしてしまえるがゆえに(しかも,後に,大きな成功を収めるアルバムが誕生したがゆえに)このアルバムに対して,正面から向き合った真っ当な評価がなされることはあまりないように思えます。
 私見ですが,このアルバムはこの時期にしかない特別な魅力を持った作品であり,今日の視点からは以後の AOR 的作品に比べて逆説的に「古さを感じない」ものになっていると,僕には感じられます。 また,ステレオタイプな見方として,「従来の Doobie の音楽に,Steely Dan から来た2人が Steely Dan 的音楽を持ち込んで,ミックスした」というものがありますが,これも単純すぎる捉え方で,むしろ,Tom Johnston の不在で生じた危機を,他のメンバー全員がアイディアを持ち寄ることでなんとか打開しようとしたことによって,それぞれのバックグラウンドの違いから来る多様な音楽性のミクスチャーになっているという見方のほうが真実に近いでしょう。 しかも,そのせいかどうかは分かりませんが,1枚を通して背後にある種の緊張感がみなぎっており,それがこのアルバムをより魅力的なものにしています。 同様にリーダー格不在の状況で作られた Little Feat"TIME LOVES A HERO" 的な位置づけをしたくなるアルバムです。

 レコーディングメンバーとしては,従来通り Memphis Horns が加わっている他,初めて Bobby LaKind (perc) がレコーディングに参加,また,Maria Muldaur (vo) が一声だけ (^^; 出てきたりします。 Tom Johnston は最小限の参加にとどまっています。

 それから,録音の向上もこのアルバムの特徴と言えるでしょう。 前作 "STAMPEDE" も従来よりクオリティの高い録音でしたが,このアルバムではその方向が更に推し進められ,粒立ちの良いシャープな音像が得られており,彼らの新たな音楽性をアピールするのに一役買っています。 いよいよ Ted Templeman の“クリーン・サウンド”が確立されたという感じです。

 全体的に見て,とにかく新しいアイディアを惜しげもなく投入している感があります。 また,Michael McDonald 独特のくぐもったようなソフトで厚みのある声が加わったことで,コーラスの響きは若干ソリッドな感覚が抑えられ,厚みを強調する方向にシフトしていますが,それでも他とは一線を画した独自の響きは維持されています。 あまり深く考えたことがなかったんですが,結局のところ Pat Simmons の声が鍵を握っているのかもしれません。

 まず,アルバム冒頭の "Wheels of Fortune" ,出だしはこれまでのアルバムと特に違和感はありません。 しかし,sax が加わるあたりから徐々に様子が変わり,NY 色が感じられるホーンや Steely Dan の影響が感じられるギターソロをフィーチャーした間奏に入ると明らかにこれまでとは違った印象に変わります。 シャープなツインドラムスの響きや中間部のベースも印象的で,従来の Doobies の音楽性と新たな洗練された方向性との,見事なミクスチャーになっています。 次々と歌い手が入れ替わりコーラスでとどめを刺すヴォーカルアレンジも加わって “総力結集” の感もあります。 ちなみに,この曲のレコーディング時,Keith Knudsen (dr, vo) は結婚休暇をとっており,ドラムスには代役として Little Feat の Richie Hayward が参加しています。
 "Takin' It to the Streets" は Michael McDonald の曲で,ソロになってからもライヴのハイライト的な場面で演奏される彼の代表曲の1つ。 keyとシンクロさせたドラムパターンが印象的で,サビのコール&レスポンスが Blue-Eyed Soul 的な雰囲気を盛り上げます。 この曲のヒットによって,Doobies の新たな顔を印象付けることになります。
 Pat Simmons 作の "8th Avenue Shuffle" も素晴らしい曲で,印象的なギターのカッティングとベースラインはもちろん,コーラスにも工夫を凝らし,更に,リズムの変化・スリリングな曲の展開など,豊富なアイディアを見事にまとめた,彼らのセンスの良さを見せつけるものになっています。
 "For Someone Special" では作曲者である Tiran Porter (b, vo) が初めてリードヴォーカルをとり,その声の良さに改めて気づかせてくれます。 リフが印象的なクールな曲に仕上がっており,密かにかっこいい曲だと思います。
 アルバム唯一の Johnston 作品 "Turn It Loose" も,このアルバムに見事にマッチした快作で,アルバムに躍動感を持ち込んでいます。
 そして,"Rio" は,音楽的な成果という意味でこのアルバムの白眉と言えるのではないでしょうか。 変拍子をも上手く取り入れ,練られたアレンジ,ホーンを加えたダイナミックな演奏,巧みなヴォーカルワークで,この曲があまり話題にされないのが僕には不思議です。(ロックの文脈だけでは捉えきれない演奏になっているためでしょうか。 もったいない話です。) 上で挙げた "8th Avenue Shuffle" もそうですが,この曲でのツインドラムスの絡みは強力で,その見事な連携にはゾクゾクさせられます。 ツインドラムスを維持したバンド自体がもともとそう多くないわけですが,その中でもここまでのコンビネーションを創り出した例はほとんどないのではないでしょうか。 その意味でも,このアルバムでのツインドラムスは類例のない音楽的成果だと思います。 しかし,これ以降,彼らはこの素晴らしいダイナミクスを自ら放棄するような方向に進んでしまうわけで,残念なことです。 なお,"Rio" は '90 年代に入って Soul Bossa Trio が見事なカヴァーを発表していますが,いかにも現代的なグルーヴと和声で素晴らしい演奏になっており,未聴の方にはオススメです。
 一方で,"It Keeps You Runnin'" などもいい曲なんですが,当時としては新機軸だったリズムボックスの使用が,今の耳にはちょっと凡庸に聴こえてしまう面もあります。

 実はこのアルバム,シングル "Takin' It to the Streets" のヒットにより,当時の売り上げは前作 "STAMPEDE" を上回っています("STAMPEDE" は,後の評価の高さとは裏腹に,発表時はシングルヒットに恵まれず売り上げが伸びなかった)。 その割にはあまり省みられることのないのはもったいないことです。 「多様性」は Doobie Brothers の音楽を語るときのキーワードであり,多様な音楽性を1つのバンドの元に結実させることは結成時からの基本コンセプトでもあったわけで,このアルバムは,そうしたバンドの方向性を改めて世間に知らせたものと言えるかも知れません。
 むしろ今の耳で聴くと,以前とは違った発見があって,素直にいいアルバムと思える作品です。

 

その4に続く)