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第4回 The Doobie Brothers アルバム全紹介(その4)

The Doobie Brothers オリジナルアルバム紹介の4回目。 今回は AOR に最接近した8枚目のアルバムを紹介します。(September, 2004)
 
 1977年

LIVIN' ON THE FAULT LINE LIVIN' ON THE FAULT LINE (邦題「運命の掟」)

 ちょっと沈んだ印象のある 7th アルバム。 とはいえ,そこそこのヒットは出ており,次の "MINUTE BY MINUTE" に比べると成功しなかったと言うことなのかもしれません。(なお,このアルバムの前にベスト盤 "BEST OF THE DOOBIES" が出ているので,それを含めれば通算8枚目の作品と言うことになります。)

 Tom Johnston (g, vo) の戦線離脱という危機的状況にメンバー一丸となって立ち向かったと言う印象の前作でしたが,小倉エージ氏が書いた今作のライナーノーツによると,前作の制作にエネルギーを注いだ結果,アルバムが完成したときにはアイディアが枯渇したかのような感覚になって,すぐに次の作品へという心境にはならなかったようです。 作り始めると今度は内輪モメがあったりして,軌道に乗るまでは時間がかかったようですが,Tom Johnston の療養が長引き,完全復帰の線が薄れたということも要因としてあったのではないかと思います。

 Steely Dan への参加というステップはあったものの,ほぼ無名と言っていい状態から "Takin' It to the Streets" のヒットにより突然注目を集める存在になったことは,当時の Michael McDonald (key, vo) にとって大変なプレッシャーになったようで,今作・次作と,レコーディングでは細部まで異常にこだわりメンバーに迷惑をかけたと後のインタビューで語っています。 そのこだわりの結果ということなのかもしれませんが,今作は非常にクリーンで落ち着いた印象のアルバムになっています。 サウンドの傾向は Doobies の作品中最も洗練されたもので,ある意味,後の McDonald のソロ作品に共通する雰囲気を持っていると言うことが出来るでしょう

 メンバーは前作と変わっていませんが,Tom Johnston のポジションが前作に比べても更に小さくなり,彼が前面に出ている曲は1曲もありません。 その結果,Michael McDonald と Pat Simmon (g, vo) の双頭バンドという印象が強くなり,特に Michael McDonald がバンドの新しい顔であることがはっきりと打ち出されています。
 ゲスト・ミュージシャンは,レギュラーメンバーと言って良い Bobby LaKind (congas, vo) の他に,Victor Feldman (vib) などが参加しており,また,backup vocalist として Rosemary Butler (vo) が重要な役割を果たしています。 Strings & horn のアレンジは David Paich が担当しており,大編成のストリングスが空間的な広がりや奥行き感を与えています。
 加えて,シンセサイザー(ギター・シンセも含め)が全面的に導入されているのも見逃せない特徴でしょう。

 内容的には,リスナーの立場からすれば,彼らのアルバム中最も難易度の高い作品と言えるでしょう。 正直なところ,僕は,もし '70 年代の Doobie Brothers に凡作があるとすれば,それはこのアルバムではないかと思っています。 僕が思う Doobies の素晴らしい点の1つは,どんなに複雑なアレンジを施そうと,高度な演奏テクニックを駆使しようと,聴き手には全く負担をかけず,あくまで屈託のない楽しい音楽として聴かせてしまえることなのですが,本作はそうした美点から(彼らの作品の中では,ですが)最も遠ざかってしまったものと言えます。 例えば,Tiran Porter (b, vo) 作の "Need a Lady" などは聴いてすぐにノッて楽しめるとはいかないでしょう。 他の曲でも,淡々と,しかし突然に場面を変化させる複雑な曲構成が印象に残ります。 初期の Doobies のシンプルな R&R に固執するタイプの人が楽しめるのは,Pat Simmons がアコースティック・ギター1本で奏でるラグタイム "Larry The Logger Two-Step" だけか,せいぜいカヴァー曲の "Little Darling (I need you)" くらいまでかも知れません。
 こうしたやや複雑な音楽性を打ち出した背景には,当時既に表面化していた,シティ・ポップスや AOR (adult-oriented rock) の流行,それからクロスオーヴァー〜フュージョンのシーンの盛り上がりがあり,従来よりも複雑な音楽を許容する時代性があったと言えるでしょう。 面白いのは,当時 AOR 的なサウンドを指向するアーティストの多くはフュージョン系のスタジオミュージシャンの助けを借りて自己のサウンドを作り上げていたような印象があるのに対し,Doobies の場合,むしろ以前よりもゲストミュージシャンの参加は少なくなり,ほとんど自分達だけで新しい音を作り上げていることで,そのせいか,McDonald の歌と Jeff Baxter (g) のクリーンなギターを中心に据えた音楽は,他の多くの “ムーディな” AOR とは異なったクールさを感じさせたりします。
 その一方で,これまでの彼らを特徴づけてきた豪快さは影を潜め,リズムセクションはスムーズかつシンプルで,端正な印象が強く,基本的なグルーヴを作る役割に徹しています。 少なくとも表面的にはロック色はほとんどなく,ソウルやジャズの流れをくむファンキーなリズム感が前面に押し出されているのですが,それと同時に楽器編成面でも,前作で素晴らしい成果を示したツイン・ドラムスは今作ではほとんど採用されず,代わって dr と perc のコンビネーションが基本的なフォーマットになっています(特に,Bobby LaKind のコンガはアルバム全編を通じて重要な働きをしています)。 このことに代表されるように,これまでのダイナミックな曲展開を極力抑え,その中に音楽的な展開を用意することで聴き手を静かに引き付けるような方向性が打ち出されていて,これまでとは大きく異なるアプローチであると言えます。しかし,これが時に分かりにくさにつながってしまっている感もないではありません。

 ・・・とまぁ,僕はどうしても Doobie Brothers の作品という観点で見てしまうこともあって,このアルバムにはどうにも複雑な気分が残ってしまうのですが,そのような文脈を離れて AOR 系の1作品として捉えるならば,非常に上質のアルバムということが出来るでしょう。 実際そういう観点でこのアルバムを評価している人も多いのではないかと思います。
 各曲を見ると,ファンキーなリフの上に重なるホーンアレンジが効果的な冒頭の "You're Made That Way",しなやかなリズム感と Norton Baffalo のハーモニカが素晴らしい隠れた名作 "There's a Light" をはじめとして,聴き所は随所にあり,曲も粒ぞろいです。 次々と場面が入れ替わり一番難解な曲と言えるタイトル曲も,唐突な展開には戸惑いながらも,アルバム随一の躍動感あるリズムと見事なインプロヴィゼーションで一気に聴かされてしまいます。 ・・・そして,何と言っても特筆すべきは,McDonald と Carly Simon の共作 "You Belong to Me" で,個人的に McDonald の作品で最も好きな曲の1つです(地味だけれど美しいこの曲は,この後,共作者の Carly Simon も取り上げ,そのヴァージョンがヒットしました)。

 ジャケットのデザインも含め,初期からのファンには違和感があるのも事実ですが,実は「意外にいい作品」というのが妥当な評価でしょうか。 AOR の中でも比較的クールなサウンドを好む人で,もしまだこのアルバムを聴いたことがないという人には,オススメです。
 結局のところ,このアルバムの洗練されたサウンドもまた Doobie Brothers なのであり,この後の彼らは,前作 "TAKIN' IT TO THE STREETS" と今作で手にした音楽的な成果を土台にして一時代を築くことになるのです。

 

その5に続く)