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第 10 回 Phat Phunktion: "YOU AND ME"

自己満足の権化のようなレヴューもついに 10 回目。 「お前は古いものしか聴いてないのか!」というようなものしか採り上げてませんでしたが,今回は幾分か新しいものを。 (April, 2005)
 
 2004年

YOU AND ME "YOU AND ME" / Phat Phunktion

 白人中心のファンク・バンド Phat Phunktion の 2004 年のアルバム。 白人によるファンキー・サウンドの“エエとこ取り”って感じで,楽しいです。 ここ1年くらいに買った CD の中では一番楽しく聴いたアルバムかも。

 
 Phat Phunktion は,key, g, b, dr, tp, sax(x2), tb, perc からなるホーン・セクション入り9人編成のバンド。 CD のジャケットを見ると女性ヴォーカルものかと思いきや,めちゃめちゃ男のバンドです。
 中心となっているのは Tim Whalen (key, vo), Al Falaschi (sax, vo), の2人らしく,本作のプロデュースもこの2人が行なっています。 ヴォーカルの中心は Al Falaschi のようで,CD のおまけとして収録されているビデオ・クリップ(出来ればフル・コーラス収録して欲しかった)ではサックス片手に歌う様子が収録されています。 この人,聴きやすい気持ちいい声の持ち主ですが,率直に言って,見た目はただの太っちょという感じで(バンド名の由来はそこか?)全然かっこよくありません (^^;。 「そういうことをお前が言うか!」という声が飛んできそうだけど (^^;;,(CD のカバー・デザインの方向とは裏腹に)彼に限らず,バンド全体としてどこか垢抜けない感じで,演奏する姿には何かアマチュアっぽい雰囲気も漂ってます。

 しかし,それはビデオ・クリップを観ての感想に過ぎません。 というか,ビデオ・クリップを観てその音とのギャップにちょっとビックリしたから,最初に上のようなことを書いてしまったわけで,R&B/ソウルからジャズまで,名立たるミュージシャンと共演してきたという彼らの演奏は素晴らしいものです。
 サウンドはブラコン〜ファンクの伝統を受け継いでいますが,感触としてはどちらかと言うと例えば Average White Band のような白人系ファンクの現代的な発展形という感じの位置づけになるでしょう。 いわゆる「黒っぽさ」みたいなのはあまり感じられません。 Acid Jazz などの影響も多分に伺え,全体のサウンド・イメージとしては Average White Band などよりもむしろそちらに近いでしょう。 柔らかさとタイトさを適度に兼ね備えた心地よいリズムに,Incognito のホーン・セクションをシリアス側から楽しそうな方向に振ったような3管のホーンセクションも,Incognito ほどの切れはないものの温かくてサックリした感じで悪くありません。 なおかつ,Acid Jazz に見られるひねった小難しさのようなものはなく,ひたすら楽しく盛り上がれる音楽になっていて,この辺はやはりアメリカ的と言うべきでしょうか。 ラップなどのエッセンスも抜け目なく盛り込んでますが,そのバランスも適度という感じで,個人的には,これくらいのバランスまでならラップも(音楽の一部として)楽しく聴けるんだけどな〜・・・と思わせられます。

 全編通じて生楽器主体の気持ちいいアンサンブルを聴かせてくれますが,中でも特筆すべきはヴォーカル・アレンジの巧みさで,密かに彼らのサウンドのキーになっているような気がします。 リード・ヴォーカルの耳あたりのいい声に加えて,いいところで切れ味良くスパッと入ってくる見事なハーモニーは,かなり効果的かつ“おいしい”味付けになっています。 紅一点の tb の声がヴォーカルのレンジを広げるのに一役買ってる感じだし,バンド全体としても,専任のリード・ヴォーカルがいない代わりに sax・key・tp・tb・g に vo のクレジットがあり,ライヴにおいてもヴォーカル・ハーモニーは威力を発揮しそうです。

 あくまでヴォーカルを主体にした全体の音で聴かせるというスタイルを貫いているらしく,管楽器のソロがほとんどフィーチャーされないのも,ホーン・セクション入りバンドには珍しいところです。 音楽的な中心人物である key の Tim Whalen はアレンジャーとしてある程度の成績を収めている人らしいので,彼のコントロールによるものかも知れません。 いずれにせよ,曲中での場面切り替えを楽器ソロではないギミックによってもたらしていることが多く,それが意外なほど効果を上げています。 ただし,楽器ソロを聴きたい人には物足りないかも知れません。
 ソロ楽器としては,これまた管楽器入りバンドには珍しく g がフィーチャーされることが多いのですが(初めて聴いたときは g 中心のプロジェクトで,ホーンセクションはゲストなのかと思ったくらい (^^;),このギター,テクニカルなフレージングや音の緊迫感で押すこのところのギターソロの傾向に逆行するかのように,歪ませ過ぎない柔らかめの音と分かりやすいフレーズ中心のスタイルで楽しませてくれます。 ときに 1970〜80年代の産業ロックの影響も感じられたりして,(僕自身は,いわゆる産業ロックにそれほどシンパシーを感じたことはないんですが)「そうだよな〜。 以前はギターソロもしっかりしたいいメロディーラインを持っていたんだよな〜」などと思わされます。 また,ギターはバッキングでもかなり中心的な役割を果たしていて,器用なところを見せています。 バッキングの時の音もカッティングにありがちな高域寄りの感じはなく,ウォームな音で好感度高いです。

 曲はどれも明快なメロディーラインを持った聴きやすいもので,いわゆる「捨て曲」と感じられるものが見当たらないのも素晴らしいところです(敢えて言えば,アルバム後半はちょっと盛り上がりに欠けるかな)。 "Untitled", "Never Be The Same" あたりはスピーディで爽快,文句なく楽しめます。 クールな中にも哀愁漂う "Always" もいい曲だし,唯一のインスト "Rocco" も楽しく聴けます。

 
 ・・・と,ほめてばっかりいるみたいですが,耳当たりよくバランスが取れている反面,突出したところがないとも言え,人によってはそれを不満に思うかもしれません。 なにしろヴォーカル面でもサウンド的にも(“見た目”的にも (^^;)強力なカリスマ的ポイントゲッターがいないというのが残念な点で,そういう意味でのアピール度が低いことを考えると恐らくバカ売れすることはないだろうな・・・と思ったりします。
 こういうバンドが今後も順調に作品をリリースし続けられる状況なのかどうかは分かりませんが,出来れば今後も良心的なオイシイ作品を作り続けて欲しい。

 ところで,本作は 3rd アルバムだそうで,1st・2nd は入手困難のようです。 1st は詳細不明(恐らくはマイナーレーベル発売で,入手はほとんど不可能なのでは?)ですが,2nd は本作と同じ NARDIS Records からリリースされてるので,再プレスしてくれないかな〜。