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第8回 Crosby, Stills, Nash & Young: "DEJA VU" ということで,今回からは特にシリーズということもなく,気まぐれなレビューということにします。 まずは,ロック史上に輝く名盤を。 (April, 2005) |
1969年 |
"DEJA VU" / Crosby, Stills, Nash & Young (邦題「デジャ・ヴ」クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング) いわゆる「Woodstock 世代」を象徴するグループである Crosby, Stills, Nash & Young (CSN&Y) が残した唯一のスタジオ録音アルバム。 時代を画する名盤です。
30年以上前のこの歴史的名盤については本も解説も山ほどあるし,リアルタイム世代でもない(故に,時代背景についての実感が乏しい)僕が今更言うようなことは何もないのですが,一応,かつてここで繰り広げられている音楽性を目指したこともある者の1人として,この名盤を後世に伝える手助けになれば(←おおげさ)・・・ということで紹介します。
良く知られているように,CSN&Y の前身である Crosby, Stills & Nash (CS&N) は,いわゆる「スーパーグループ」的存在として登場しました。 David Crosby (g, vo) は Byrds のメンバーとして,Stephen Stills (g, vo) は西海岸の革新的ロックグループだった Buffalo Springfield の中心人物として,Graham Nash (g, vo) はイギリスのポップグループ Hollies のメンバーとして,それぞれ既に実績を持つミュージシャンであり,そうした「既に名のある」メンバーばかりで結成された新しいタイプのグループとして注目されたわけです。 CSN&Y は,知っての通り,この3人に更に Neil Young (g, vo) を加えた4人です。 現在では Neil Young が4人の中で一番有名ですが,当時の Young は Stills と同じ Buffalo Springfield のメンバーではあったものの,一般にはマイナーな存在だったようです。 Young 加入のいきさつについてはいまだハッキリしていないようですが Stills の提案であったのは確からしく,CS&N がツアーに出るにあたって(自分の他に)強力なギターが弾けるメンバーをもう1人加えることによって演奏に充実感をもたらそうということで,他の2人に Young を推薦したと言われています(2人のギターバトルは,ライヴアルバム "4 WAY STREET" の後半で聴くことが出来ます)。 しかしながら,Stills と Young は Buffalo Springfield 時代から,ことあるごとに衝突しており(Stills と Young の確執はとにかく有名です),Young を加入させた時点でグループの短命化は避けられなくなったとも言えます。
そうして発表されたこのアルバムは大歓迎を受けますが,後になって判明したグループの内情を暴露してしまえば,結局のところ4人揃ってレコーディングしたのは中の数曲に過ぎなかったのだそうです。 しかも,なにかと意見の対立が生じるため,「他のメンバーが帰ってから作業した(Stills)」などという証言もあります。 こういった負の部分だけを採り上げるのは間違いでしょうが,少なくとも,外野にいた人々がこのグループに投影する自由主義的理想と,現実との間にはかなりのギャップがあったのは確かでしょう。 (例えば,Eagles の Don Henley (dr, vo) は,当時の自分達にとって CSN&Y は希望の星だった,それが目の前でみるみる壊れてしまった・・・という趣旨のことを述べています。) にもかかわらず、このアルバムはやはり名盤だ。 自分を思いきり主張したい、しかし自分が今やろうとしていることは他の3人がいなければ成し遂げることができない、という葛藤。 激しいライヴァル意識と、互いを尊敬し必要とする気持ちと。 そのせめぎ合いがこの上ない緊張感を生み出し、普通だったらバラバラになってしまいそうなアルバムを引き締まったものに仕立て上げている。 70年代に入って、カントリー・フレイヴァーをたたえた後続のクローン・バンドが続出する中、純粋な意味ではたった1枚のオリジナル・スタジオ・アルバムしか残さなかった CSN&Y が偉大なグループとしていまだに語り継がれている背景には、こうした作品の成り立ちが大きく影響しているのだろう。(以下略)
本作ではメンバーそれぞれが曲を持ち寄り4人4様の作風が展開されていますが,CS&N に引き続き基本的なところで音楽の中心となっているのは Stephen Stills と言っていいでしょう。 Stills はバンドを構成する楽器のほとんどを演奏できるマルチプレーヤーであり,特にギターに関しては,独特のオープンチューニングも含め強力かつ個性的なプレイスタイルを確立した達人です。 更に,音楽について広範な知識を持っており,それらを自らの音楽に組み入れる実験への意欲も旺盛でした。 サウンド面において,CS&N / CSN&Y の革新性や魅力のかなりの部分が Stills の傑出した能力によるものであるのは間違いないでしょう。 少なくとも僕の場合,CS&N / CSN&Y のサウンドの特徴として真っ先に思いつくのは Stills の作品の持つ特徴だし,20年後に突然制作された CSN&Y 2枚目のスタジオ録音盤 "AMERICAN DREAM" がおよそ傑作とは言い難い出来だったのは,グループ内での Stills のポジションが小さくなってしまって彼のコントロールがグループ全体に反映されなくなったことによるのではないかと感じます。
では,その革新性とか魅力というのが例えばどういうところにあるのか?(以下,実際に聴く前に余計なディテールを頭にインプットしたくない人は,このパラグラフを飛ばしてください。)
アルバム全体の印象を形成するのはやはり,上記の "Carry On" や "Woodstock(これは Joni Mitchell の作品)", といった,Stills を核にメンバーの力を結集した斬新かつ骨太な曲でしょう。 しかし,その一方で,Young の個性が光る "Helpless" や R&B 色の強い Crosby の "Almost Cut My Hair" といった曲も十分魅力的であり,メンバー各々が個として独立したアーティストである上に,集まるとなお素晴らしいという,自由主義的なグループのコンセプトを理想的な形で体現していることが実感できます。 CSN&Y 参加以後の Neil Young の活躍の目覚ましさもあって,このアルバムにおける Young の役割を過大評価する向きも見られますが(そう言う人は,得てして CS&N のアルバムについてまで「Young がいないとねー」などと言ったりする),率直に言って,このアルバム全体における Young の関与はそれほど大きくないように思います(Young が素晴らしくないと言ってるのではなく,単純に寄与の量の問題です)。 本作における Young の存在の魅力はどちらかというとソロアーティストとしての魅力であって,グループとしての魅力とは多少方向が違うように僕には思えるのです。 既に高度な調和感と完成度に達していた CS&N のアルバムと比較すると,彼の個性の強い声は時にハーモニーの完成度を乱すものと感じられることもあり,この点に関しては残念ながら必ずしも Young を加えたことによる「更なる相乗効果」という風にはなっていないと言わざるを得ません。 もちろん,そういった点を差し引いたとしても,Young が加わることでグループの緊張感が増幅されてこの傑作が生み出されたのは間違いないでしょうし,本作における Young の存在価値は,実はそこにこそあるのではないかという気がします。
・・・そうそう,もう1点付け加えると,この作品はワーナー・パイオニアの廉価シリーズの中の1つとして早くから CD 化されてましたが,その CD では(アナログディスクで聴いたときに感じていた)アコースティックギターの素晴らしい音色が全く再現されてなくて,ひどくガッカリした記憶があります(初期の CD 化ってよくこういうことがありましたね)。 何とかしてくれ〜!と思っていたんですが,1990 年代に入ってようやくリマスター盤が出ました。 良くなった点ばかりではないようにも思えるのですが,トータルとしては最初に出た CD よりもかなり改善されているので,これから入手する人は中古のワーナー盤などに手を出さず,リマスター盤を入手することをお勧めします。 |